20年前と今の注文住宅の違い
最近では物価の高騰が話題となっていますが、住宅業界においても例外とはいえません。とくに注文住宅を検討している方にとって、価格は大きなポイントでもあるでしょう。20年前と比べると、建築基準や経済的要因など、さまざまな面で大きな変化が起きています。本記事では、家を建てるときの昔と今の違いについて詳しく解説します。
住宅価格の推移について
令和5年9月29日に公表された令和5年6月分の不動産価格指数によると、住宅価格は一貫して上昇しています。この指数は2010年平均を100とした場合の値を示しており、2023年6月時点で住宅総合は136.1、戸建住宅は116.9、住宅地は115.6と、いずれも明らかな値上がりを見せています。とくに、戸建住宅と土地の価格は2020年を境に急上昇しています。
首都圏の新築戸建住宅の価格推移を振り返ると、過去20年間で最も高かったのは2008年前半の4,023万円です。しかし、2008年後半に発生したリーマンショックによって価格は下がり、その後約10年間は大きな動きが見られませんでした。
この静かな時期を経て、2020年以降、住宅価格は急激に上昇を始めました。2020年後半には首都圏の新築戸建住宅の平均価格は約3,500万円でしたが、2022年には約4,200万円となり、わずか2年間で約20%の上昇を記録しました。
さらにその後も上昇を続け、過去最高水準を突破し続けています。
住宅価格はなぜ高騰しているのか
住宅価格の高騰は、建築に関わる材料費、運送費、人件費などの上昇が主な原因です。実際、一般社団法人建設物価調査会によると、2002年と比べて建築費は46.7%も上がっています。具体的な要因について詳しく見ていきましょう。
木材価格の高騰(ウッドショック)
日本は建築木材の約7割を輸入に頼っています。しかし、近年では輸入木材の供給が滞るようになりました。その原因は、アメリカにおける住宅需要の急増です。コロナウィルスの影響でリモートワークが普及し、都市部から郊外への移住が進みました。
この動きにより、アメリカ国内での住宅建設が急増し、木材の需要が高まったのです。同時期に中国でも住宅需要が拡大しました。この2大国での需要増により、日本への木材供給が減少し、結果として木材価格が高騰しています。
また、日本の建築木材に対する基準が厳しいことも影響しています。基準の厳しい日本よりも、基準の緩やかなアメリカや中国に木材を輸出する方が効率的と考えられたためです。
コロナ禍が収束しても、木材価格の高止まりは続くと見られています。
鉄価格の高騰(アイアンショック)
鉄筋や鉄骨はマンションやビルだけでなく、住宅設備にも使用される重要な建材です。
鉄の価格上昇も木材と同様に、アメリカと中国での住宅需要の増加が原因です。コロナ禍が落ち着き経済活動が再開されると、住宅需要が急増し、鉄の需要も高まりました。その結果、主原料である鉄鉱石の供給不足が生じ、価格高騰を引き起こしています。
日本は鉄鉱石を100%輸入に頼っており、世界的な供給不足の影響を受けやすい状況です。そのため、鉄価格の高騰は避けられず、建築資材としての鉄の価格上昇が住宅価格の高騰につながっています。
ガソリン代の高騰
ガソリン代の高騰は、直接的には建築費の高騰に関係ないように見えますが、実際には深く関わっています。
建築材料の多くは輸入されており、ガソリン代の上昇は輸送コストの増加を意味します。国内でも建築現場まで材料を運ぶ際にトラックを使用するため、運搬コストそのものが建築材料の高騰を引き起こしているのです。
コンテナ料金の上昇
コロナ禍によりコンテナ不足が深刻化し、コンテナ料金が上がっています。リモートワークの普及によって人の移動が減る一方で、物の移動が増加しました。
これにより、運送費などの物流価格が上がり、その上昇コストが建築資材の価格に反映されています。最終的に、これが住宅価格の値上げにつながっています。
円安による輸入価格の高騰
日本は多くの建築資材を輸入に頼っており、円安の影響を強く受けます。最近の円安は日本の低金利政策が主な原因です。
世界の主要国が物価上昇を抑えるために金利を引き上げるなか、日本の金利は低いままであり、その結果として円安が進行しています。円安は輸入コストを増加させ、建築資材の価格上昇を引き起こしています。
人件費の上昇
建設業界では職人不足が深刻化しており、それが人件費の上昇を招いています。国土交通省によると、建設業の就業者数はピーク時の685万人から492万人まで減少しています。また、働く人の高齢化も進み、55歳以上が34%を占める一方、29歳以下は11%に過ぎません。
職人の減少と高齢化に伴い、人件費の上昇が避けられない状況となっています。
建築基準が上がったことによる費用の増加
地震が多発する日本において、国民の生命や財産を守るには、建物の耐震性が極めて重要です。そのため、住まいの耐震基準が建築基準法や施行令によって定められています。
建築基準法は「生きた法律」とも称され、大地震が発生するたびに被害を受けた建物の検証を通じて、耐震基準が改正されてきました。建築基準法に基づいた耐震基準を遵守することで、建物の一定の耐震性能が確保されます。
建築基準法は1950年に制定され、耐震基準は1971年、1981年、2000年に大きな改正が行われました。1981年の改正はとくに重要で、これにより建物は「旧耐震」と「新耐震」に分類されるようになりました。
旧耐震では、震度5程度の中規模な地震で大きな損傷を受けないことが求められましたが、新耐震では、震度6程度の大規模な地震でも建物の倒壊や大きな損傷を受けないことが基準となりました。現在適用されているのは、この新耐震基準です。
1981年の改正では、一次設計と二次設計の概念が導入されています。一次設計では中規模地震に対する建物の損傷を防ぎ、二次設計では大規模地震に対する建物の倒壊を防ぐことが検証されます。
また、建物の高さや地盤の性質に応じて地震荷重が異なることを考慮し、実際の地震の力を反映した設計が求められるようになりました。さらに、建物のねじれを防ぐためにバランスに配慮した設計も求められています。
2000年の改正は主に木造住宅に関するもので、鉄筋コンクリート造のマンションの耐震基準は1981年の改正以降大きな変更はありません。木造住宅では地盤調査が事実上義務付けられ、基礎は地耐力に適合したものとされています。また、柱や筋交いを固定する接合部の金物が指定され、耐力壁の配置バランスも規定されました。
建築基準が向上することで、家を建てる際の費用も増加します。使用する材料の量が増え、専門的な技術を持った人手が必要となり、設計や施工にかかる手間も増えます。
たとえば、耐震性を高めるために使用する鉄筋やコンクリートの量が増えると、それだけ材料費がかかります。また、耐震設計を行う専門技術者や施工を行う職人の数も増やす必要があり、人件費も増加するでしょう。
さらに、地盤調査や基礎工事の徹底も費用増加の要因です。地盤調査を行うための専門的な機器や技術者の費用、必要に応じた地盤強化工事の費用などが発生します。そして、設計段階での詳細な計算やバランスを考慮した設計の必要性も、費用が増加する一因といえるでしょう。
まとめ
過去20年間で注文住宅の価格は大幅に上がり、その背景には多くの要因が複合的に絡んでいます。価格高騰の主な理由は、建築材料費や運送費、人件費などの上昇です。
木材や鉄の価格は、アメリカや中国での住宅需要増加に伴う供給不足によって高騰し、ガソリン代やコンテナ料金、円安も輸送コストを押し上げている状態です。さらに、建築基準法の改正により耐震基準が強化されたことで、使用材料の増加や専門的な技術者の必要性が増し、これも費用増加の一因となっています。
これらの要因が重なり、住宅価格は過去最高水準を突破し続けています。住宅市場の現状を理解するためには、これらの経済的、技術的要因を総合的に把握することが重要です。
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